haldaneのウィスキー日記

シングルモルトを中心に酒と食を記して行く

25年を飲んで笑って宮城峡

9:24の仙台行きに弁当を買って乗車。早速、ビールで一人乾杯。遊びの旅行はこうでなくては。車内で蒸留所に電話して確認。風が強いので仙山線が止まるかもしれず、お気を付けてとのこと。だめならだめで、とソフト牛タンジャーキーで飲み続け。

仙台で停車直前に非常ボタンが押されて急停車。何という非常識な輩であろう。十五分以上立ち往生。前の号車から降ろしてくれるというようなことは絶対にしないのがJR、国鉄である。もしお前らが砂漠で死にかかって、たとえ十メートル先にオアシスがあっても絶対に汲んで来てなんかやらないからな!
これまで仕事で仙台に行くときはいつも正面口から出るので在来線乗り換え口の存在すら知らなかった。新幹線から仙山線へちゃんとダイレクトに乗り換える通路があった。「強風の為遅れております」のアナウンスに脅えながらホームへ降りると一応、11:52便は正常運行するらしい。コーヒーを買って待つ。

車内で弁当を食し、雪景色を見ながら作並駅を待つ。愛子を過ぎると急に田舎になるがそれでも民家はちらほらある。そして作並駅は雪と山に埋もれながらしっかりあった、天気も良好。出口で知らないおっさんにどこまで?と聞かれ、今の時代に駕籠かきかと思い気や、温泉旅館の送迎バスだった。

十数メートルも歩くと作並街道48号線に出る。路線バスは三十分後くらいだったこと、そして今回はお出かけには珍しく、Hybrid zero3のテザリングNokia N8のGPSがかなりしっかり作動しているので歩くことにした。徒歩で二十数分らしい。早足なら二十分くらいだろう。実は国道48号線に出てしまえばGPSなど無くとも平気なのであるが、こう言うときに限ってN8のGooglemapの調子が良い。

途中に東北のツェルマット()を左に見ながらずんずん行くと、切り干し大根が干してあったりして気分を良くしてさらに歩くと、歩道が無くなるので後ろからビュンビュン来るトラックを避けて反対側に渡る。

するとニッカ橋が右に見える。ちなみにニッカワ川、すなわち新川川は、ニッカの社名とは関係ないらしい。

右に折れて少し行くと赤い建物が見えるが、見学ツアーの受付はそこから左に折れてさらに500メートルも先らしい。万が一タクシーで来る場合は、入り口で降りたりせず、見学受付場所まで行って貰わないとエライことになる。

途中、煙突があったり、場末の食堂の定食のような匂いがしたり(実はこれが麦芽を蒸す匂いだった)する中をどんどん歩く。

ヘトヘトになって見学受け付けの近くまで来ると、「見学者の皆様はこちら」と書いた矢印の看板が二枚あって、それぞれ逆方向を挿している。正解は向かって右の方。左は見学終了後の試飲場であった。

受け付けで申し込みを済ませ1:30からのツアーに入ることになった。と言っても自分独りである。待っている間に竹鶴政孝と奥方リタさんの感動ビデオをずっと見ていた。
※リタさんの本名はJessie Roberta Cowanで、スコットランドグラスゴー出身、1,2,3

ご案内は伊藤さんと言う方で赤いコートの制服を着ている。受付の建物を出て、まずキルンと言う、屋根がとてつもなく尖った建物を、今は落雪の危険があるとのことで通り過ぎ、確かに最近出来た何とかタワーもそうだと思った。

次に麦芽を蒸すところへ。コーン(もっと固有な名前があった、メイズである)と、麦芽と、ノンピートの麦芽、の三種類を醸造しているらしい。ピートをどうやって付けるのか、肝心なところを聞き忘れたけどそんなことは検索すればすぐにわかる(後記、ここがとても詳しい)。ニッカはモルトオンリーだとばかり思っていたのだけれどグレーンウィスキーも作っていることがわかった。

そのグレーン(とうもろこし)をどうしてメイズと言うのかすぐにはわからなかったのだけれど、後で辞書(Googleでなく!)を引くとmais=トウモロコシ、とある。なるほど、フランス語のマイス(iはトレマ)であったか。

発酵した麦芽はビールの原液みたいで、それにホップを加えたらビールになるのだそうだ。ニッカビールとか限定で売り出せば良い商売になるだろうにと思った。発酵の制御部分はかなりハイテクが入っていて、コンピュータ制御された電磁弁系である。で、撮影もご遠慮頂いているとのことだった。

ふと後ろを見ると誰かついて来ている。お客さんでは無いようで、付かず離れず、職員の人が後ろに立っている。CIAに尾行されているべ平連にでもなった気がした。きっと過去に何かあったンでしょうな、、。

次に蒸留塔に連れて行かれた。一次蒸留のポットスチルが二台、再蒸留のが四台、どれもしめ縄がしっかり巻かれている。神頼みっすか?とつい聞いてしまった。創業者の実家が造り酒屋で、その風習を受け継いでいるとのこと。さすが即答出来る、とても素晴らしい。

ポットスチル首の部分には電極のようなものが二つついていて、また、もっと下のわきのところには、内圧調整用なのだろうか、エア駆動のゲートバルブのようなものが付いていた。

蒸留された蒸気は「冷却器」で再凝縮されて60パーセントくらいの高濃度のアルコールになります、とのことだったけど、冷却器は見えませんと断言された。でもコンデンサーはしっかり見えていた。ただしコンデンサーがどこまでやるのか、高濃度蒸気までなのか、完全に凝縮まで行くのか、、、。問い詰めるのも悪いような気がして、次の、「加水して樽に詰めます」と言う説明を聞いた。加水していない「フロム・ザ・バレル」という商品もあるそうなのでいずれ試そう。

最後に醸成場所へ。本物のピートに触ったりも出来たけど、でそれがどう麦芽に作用するのか聞き忘れた。

蒸留直後のウィスキーは無色透明でそれが樽の中で熟成して、、、と言うわけで、三つの樽の中身の匂いをかがせて貰った。直後の樽だけははっきりわかった。

熟成中に、一年で二パーセントずつ減少するのだそうで、それを天使の取り分と言うとのことだけど英語、いやゲール語でホントにそう言ってたのだろうか、、、。

結局、ウィスキーは樽の木から染み出た味なのだろうか。純粋アルコールを樽に詰めればウィスキーになるのか?それとも、最初から入っている微量な成分が大事なのだろうか。いっそ小さな樽で、樽ごと売ればいいのに、と思った。樽の原木を見ながら貯蔵庫を後にした。

で最後に試飲会場へ。試飲対象のウィスキーの宣伝を聞いたあと、同じグラスで、宮城峡12と竹鶴17、そしてアップルワインの三つが供された。案内の方が自らチェイサーを持って来ながら、ソーダや氷もあります、と言われたけれどもちろんストレートで。

なぜアップルワインが試飲に出るのかちょっと不思議な感があるのだけれど、アカンパニーされて来られた奥様用とか言う気もするし、あるいは、ニッカがもともと「日果」としてジュースを売っていたことのメモリアルなのだろうか。ウィスキーの熟成には十年と言う単位の年月が必要で、その間を生き延びる何かが必ず必要なわけで、余市で創業した当時は林檎果汁を売っていたらしい。現在でも、熟成途中の樽を何年目で開けるかは、経営と理念と、大変な決断が必要とされるのだろう。

試飲の前の紹介で「鶴17年」を「最高級の、、」と紹介していたが、その名に違わず、とろりとした味わいの最優等生。これを飲むと一瞬、シングルモルトなんかどうでも良くなるくらいすごい。

その後、有料の試飲コーナーではもちろん、一番高い25年と20年のシングルカスクをいただいた。はっとしてうっとりする、の一言。

特に20年はシェリー樽で漬け込んだじゃなかった、熟成したもので、想像を絶する濃厚さと甘い香り。創業者はこういう香りにのめり込んだのだろうなあ。

最初、手頃なものをお土産、自分のみやげにするつもりだったのが、甘い香りの毒が全身に廻り、気が付いたときには20年のシングルカスク500mlを買ってしまっていた。

このシングルカスクを飲むため、それだけでも、宮城峡(あるいは余市)を訪問する価値がある。陳列棚には創業以来の製品が陳列してあったので全部撮影してみた。
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試飲コーナーで若い二人連れ、男性の、がとても熱心にメモを取ったり、バーテンダーにいろいろ尋ねたりしていた。そのときは思いつかなかったのだけれど帰り道でふと、もしかして就活の一貫としてやっているのかなと思ったりした。大学によってはもう、秋学期の試験も終わっているので、三年生は活動を始めている人もいる。ニッカ、あるいはサントリー、いや酒造メーカーを希望しているのであれば、前以て一般人として見学に来ていても不思議ではない。聞いてみれば良かった。

帰りも歩けそうな気がした(実は既に足に筋肉痛が、、、)ので、お土産のチョコを買って外に出た。

冷たくて気持ちのいい空気の中をツェルマットを今度は右に見ながら作並駅に向かってずんずん戻った。

ところが、帰りの電車の時間を調べなかったのがわざわいして、駅の目の前でポーと言う汽笛の音。日本で最初の交流電化線なのに。あとはいくら急いでも後の祭り。待合室で一時間まちぼうけ。

仙台駅の乗り継ぎ改札でこまちの指定をとり、ホントのおみやげにフカ鰭スープを買い込み、帰京は19:07であった。

どうでもいい話なのだが、乗り継ぎ指定を取った際、回数券と指定券、そして通常切符サイズの清算済み券(作並は仙台市内域なので実際に清算したわけではない)の三枚を同時に自動改札に放り込んだのが妙に印象に残った。

で、20年シングルカスクを買って帰ったので恐れ多くもニッカさんへの提言。

  • 見学ツアーは良く整備されているので、もっと宣伝しないと!冬場は閑散としていて人員がもったいない。
  • 麦芽地ビールをちょこっと作って売ったら楽しいはず。オックスフォードではチェイサーはビールであるらしい。
  • 数リットルの小さな樽に原酒を詰めて売らないのだろうか。家で熟成、とか楽しそうなのだが。(熟成出来るちゃんとした樽は、そういう樽にするための熟成と管理が大変なんだろう。ただ、サントリーで樽売りを以前していたという話を聞いたことがある、【後記】実践されておられる方がいらした、カスク日記)。

ただ、三つ目は、ストレートで味わう、味わえる習慣が無いと難しい。水割りやハイボールにしてしまっては、どれも同じになってしまうから、、、。

修行のため、昨晩は宮城峡ノンエイジをナイトキャップ(50mℓ)にした。これだけを飲んでいると大満足の世界だがそれではいかん。言葉にしなくては、語らなくては。いく晩か続けて味と香りを覚えよう。
(メモ)で、楽天のポイントでアードベック・シングルモルトを注文してしまった。